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『種まく旅人 〜みのりの茶〜』
監督 : 塩屋 俊 (2012 / 日本)
舞台は大分県の臼杵。
有機栽培茶農家の祖父が、心臓発作により入院。
ちょうどアパレルデザイナーの仕事をリストラされたばかりで
その場に居合わせた、田中麗奈さん演じる孫娘のみのりが
まったく経験のなかった農作業を代わりにすることになります。
お茶は工業製品ではなく、自然から日々いただく恵み。
晴れの日も大切だし、雨の日も大切。
シンプルな道理ながら忘れがちな
そんな包容力のあるメッセージに満ちた物語です。
陣内孝則さん演じる、神出鬼没の “金ちゃん” が
主人公でありながら物語の狂言回しの役目もしていて
(タイトルの 「種まく旅人」 とは、実は彼のことでしょうか)
楽しんで観られる、ほんわかとした印象のサクセスストーリー。
約2時間という尺ですから、お茶づくりのようすについては
そのこもごもの一面しか描けないという制約があるのでしょう。
茶にたずさわる者としては、どうもつい専門的にみてしまい
気になる点がなきにしもあらずでしたが
ただ劇中では、茶園の日々の管理にくわえ
荒茶に加工する作業なども話に織り込まれていて
製茶風景をみたことのないかたには新鮮かと思います。
くわえて、単に主人公らが農業に取り組む様子のみならず
過疎化や高齢化の進む土地の人間関係、慣習についてや
小さな地方自治体の農政についての問題点のエッセンスが
現実的に織り込まれているところにも魅力を感じました。
あと、みのりのメイクが話を追うごとに徐々に薄くなっていって
終盤、茶園の光のなかで素肌の質感が柔和に伝わるカットがあり
これが実に美しかったのです。
その清気に、やられたと思いました。
というのも、終盤までほぼすべての農作業シーンで
みのりは日よけの帽子をかぶらないんですね。
茶園の日ざしの強さを思うと、これはさすがに考えにくいことで
ずっと違和感をぬぐえないままに観賞していたものですから。
顔の表情をしっかりみせるため、という側面のみならず
そんな微妙な変化をも伝える狙いがあったのかもしれませんね。
観終えたらきっと、あたたかなお茶をゆっくりと淹れて飲みたくなります。