トップページ > ブログ「お茶まわり」
日本と台湾、お茶にまつわる慣習のつながりを感じさせる
興味深い記事が読売新聞にありました。
→ 「冠婚葬祭@台湾:〜婚の巻〜 結納 「訂婚」 でも披露宴
◇ お茶振る舞い家族に」
(読売新聞 2011/08/23)
日本でいうところの結納にスタイルの似ている
台湾の 「訂婚」 について書かれたものですが
その儀式のなかに
新婦自ら、新郎側の家族に茶をふるまう場面があるといいます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
新郎側の家族に茶を振る舞う 「奉茶」 の儀式は、
訂婚の最重要イベント。
移植の難しい茶の木になぞらえて
「他の男性の所には行きません」 という約束を意味する。
その後、指輪の交換など日本でも見かけるような儀式が続く。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
これ、どこかで聞いたことがある話だな、と思いましたら
日本では全国的ではないものの
九州地方を中心に、奥三河の一部地域などでも
結納など婚礼の場でお茶が使われることがあるのです。
日本では大きくわけて、花嫁が淹れたお茶を飲んでもらう場合と
結納品として茶葉そのものが渡される場合とがあります。
たしかに、茶樹の植え替え、根づきというのは
成木になるにつれ比較的難しくなるのですけれど。
それになぞらえた、誓いといいますか、契りのお茶は
どんな味わいの一杯として胸に残るのでしょうね。
<< 今日の記事のおもな関連記事 >>
◆ 2007/12/06 「婚礼とお茶」
◆ 2011/03/07 「信長のころのお茶うけ」
茶事といえば、未経験のかたにとっては
作法にのっとりお茶をいただく場、という印象が強いようですね。
そこで箸をとり簡単な食事をしたり
お酒が出たりすると知ると驚かれるかたも少なくありません。
この、茶事で出される料理について
先日の朝日新聞に、平易に紹介する記事が載りました。
→ 「 〈はじめての懐石〉 自然なもてなし 想像力楽しむ」
(asahi.com 2011/08/03)
昨今、日本料理店で 「懐石料理」 をうたうところには
ちょっと高級なお店というイメージがありますけれど。
もともとの、茶事における 「懐石」 は記事にもありますように
「お茶を飲む前に、空腹をおさえておく食事」 のこと。
一連のプログラムのなかのあくまで “一部” なのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ご飯と汁、おかずという一汁三菜に、
控えめに酒を楽しむための肴(さかな)を添える。
懐石は、家の食事に近い。
日常の延長にある非日常なのだ。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「日常の延長にある非日常」 、素敵なことばですね。
茶事のメインイベント、いちばんのご馳走ともいうべき
とろとろに練り上げた 「濃茶(こいちゃ)」 を飲む前に
腹中をあたためる程度の量感のもの。
ですから、量が多すぎるのも
料理だけが浮いてしまうような贅の尽くしすぎも好まれません。
からっぽの胃に濃茶のカフェインの刺激は強いから、という配慮も
もちろんあってのことだったのでしょうね。
これが中国人の嗜好にあった。
以降、加速度的に中国のアヘン輸入が拡大していく。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
インドではかつて
「アヘンを薬として茶に混ぜて飲んでいた」 んですね。
お茶自体ももともとアジアのみならず多くの地域で
薬のように服されていたものですから
そういえばそうかも、とは思いつつも、やはり驚きました。
中国へと売りこまれた、煙を直接吸引するという
飲んだときのように苦みや臭みをともなわないという方法。
これによりアヘンの国内需要が爆発的に伸び
お茶の輸出だけでは貿易バランスが保たれなくなったことが
戦争の引き金になったと考えると
アヘン戦争の、いかにお茶とのかかわりが深いことでしょう。
インドのティータイムで思い浮かぶ飲みものといえば
なんといってもマサラ・チャイ。
スパイスで香味づけした、ミルクと砂糖がふんだんなお茶ですね。
驚いたことにこれ、意外と歴史が新しいのだそうです。
→ 「世界食彩記 : マサラ・チャイ インド・ニューデリー」
(毎日新聞 2011/07/11)
こちらの記事によりますと、もともとインドでは
北東部の一部部族を除けば喫茶習慣は根づいていなかったとか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
19世紀前半、当時の支配国・英国がプランテーションを作り、
お茶の生産が始まった。
中国(当時は清朝)でアヘン戦争が勃発し、
中国茶が英国に入らなくなったのが背景という。
第一次大戦で英国軍部隊として前線に送られたインド兵が、
茶を飲む習慣を覚えて帰還。
その後、インドで紅茶文化を広めるきっかけになったともいわれる。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ということで、かつての支配国である英国の影響が色濃いんですね。
ただ、インドのチャイが英国のミルクティーと大きく異なるのが
なんといってもスパイスたっぷりなところ。
英国のレシピをまったくそのままの形では受容せずに
風土に合ったものに姿を変えているところが
嗜好飲料の伝播という点でも、非常に面白いと思いました。
それにしても、この記事の冒頭で紹介されている
「お茶が飲めないほど忙しいなんて、人生ではありえない」
という元外交官のひとことは素敵ですね、名文句です。
<< 今日の記事のおもな関連記事 >>
◆ 2010/10/21 「英国式ミルクティーのコツどころ」
◆ 2010/10/22 「ミルクつぼには冷たいミルク?」