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  • 2016.03.31 Thursday

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ふじさん、と、語呂あわせができる今日2月23日。

残念ながら今日は今のところ本降り。
こちら藤枝市からは富士山をのぞむべくもないのですが
かわりに、富士を描いた掌編を読み返してみました。

富嶽百景・走れメロス

富嶽百景・走れメロス 他八篇
太宰 治
(岩波文庫)

青空文庫にも収録されています。
→ 「富嶽百景」 太宰 治 (青空文庫) ※html版

この作品、冒頭のあたりでは

「ニツポンのフジヤマを、
 あらかじめ憧れてゐるからこそ、ワンダフルなのであつて、
 さうでなくて、そのやうな俗な宣伝を、一さい知らず、
 素朴な、純粋の、うつろな心に、果して、どれだけ訴へ得るか、
 そのことになると、多少、心細い山である。」

とつづっている太宰。

ところが、山梨の御坂峠にある茶屋での滞在をとおして
富士をめぐる思いの変化が
はからずも鮮明に立ち現れる形となってくるところも
この短編の面白さと感じます。

いいな、と感じたところを抜き出すのも困難なくらいに
終始魅力的な作品なのですけれども
今日は天候も天候ですから、この部分を。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−  
 パノラマ台には、茶店が三軒ならんで立つてゐる。
 そのうちの一軒、
 老爺と老婆と二人きりで経営してゐるじみな一軒を選んで、
 そこで熱い茶を呑んだ。
 茶店の老婆は気の毒がり、ほんたうに生憎(あいにく)の霧で、
 もう少し経つたら霧もはれると思ひますが、
 富士は、ほんのすぐそこに、くつきり見えます、と言ひ、
 茶店の奥から富士の大きい写真を持ち出し、
 崖の端に立つてその写真を両手で高く掲示して、
 ちやうどこの辺に、このとほりに、こんなに大きく、
 こんなにはつきり、このとほりに見えます、と
 懸命に註釈するのである。
 私たちは、番茶をすすりながら、その富士を眺めて、笑つた。
 いい富士を見た。
 霧の深いのを、残念にも思はなかつた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−  

今日のような日にもまた同じように
山梨や静岡のどこかで繰り広げられているかもしれない光景。

茶店の老婆の可愛らしさにくわえて
この引用部の直前にある、同行している師の井伏鱒二が

「岩に腰をおろし、ゆつくり煙草を吸ひながら、放屁なされた。
 いかにも、つまらなさうであつた。」

との表現もユーモラスで
軽快な心持ちになれる、人を愛おしく思えるあたたかなくだりです。
こんな太宰もあるのだよなあ、と。
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  • 2016.03.31 Thursday 10:37

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