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『又兵衛絵巻と北斎・広重風景版画の名作』
於・MOA美術館(静岡・熱海)
2010年5月14日(金)〜6月7日(月)
江戸初期の絵師・岩佐又兵衛(いわさ またべえ)作とされる
《浄瑠璃(じょうるり)物語絵巻》 を拝見できる今展。
かの牛若丸と浄瑠璃姫の、全12巻にもおよぶ恋物語は
てらてらの極彩色の世界です。
しかも、とことん緻密な、そして徹底的な装飾ぶり。
前半部の、姫の御殿の描きこみなど特にすごくて
部屋のしつらえが絢爛(けんらん)なのはもとより
ねちっこいほどの細密描写に、めまいしそうになります。
絵巻自体の保存状態が素晴らしいので
高価な顔料を多用していることも、ひと目で見てとれます。
きっと、裕福でわがまま(?)なパトロンの満足を得るために
工房が一丸となって没頭した作品なのでしょう。
どんな人が注文主だったのか … 想像がふくらみます。
又兵衛のものは、ほかにも小品がいくつか出ていて
なかでも、ふたりの歌仙を水墨でさらりと描いた
双幅の 《柿本人麿図・紀貫之図》 が面白かったです。
なにかのおりに戯れで描いたような、ラフな雰囲気で
ふたりの顔の表情など、それこそ戯画のよう。
それぞれの衣にみられる、伸びやかな筆の走りも楽しくて
もしかしたら、数々の豪華な絵巻より、この墨のこの線が
又兵衛の底力を端的に示しているのでは、とさえ。
現在の展示ではさらに、葛飾北斎の 《冨嶽三十六景》 と
歌川広重の 《東海道五十三次》 の保永堂版までも
じっくり、たっぷりと楽しめる展示内容となっています。
ぜいたくです。
北斎の肉筆の 《軍鶏図》 、これがまた格好よくて。
いつものことですが、MOA美術館の所蔵品の
質・量のすごさにも圧倒されっぱなしでした。
開国にともない、日本茶が最初に輸出されたのは
以前の記事 「はじめての茶の輸出」 でも言及しました
1859(安政6)年のこと。
『日本茶輸出百年史』 (日本茶輸出組合) によると
これは、開港と同時に横浜港から輸出されたもので
39万6810ポンド、180トンにものぼります。
この同じ年、長崎が生んだひとりの女性貿易商が
九州産のお茶の輸出に、やはり成功しています。
それが、NHKの 大河ドラマ 『龍馬伝』 にも登場する
大浦慶(おおうら けい)です。
当ブログでもご紹介したことのある 、お慶さん。
日本茶業史に登場する数少ない女性のひとりで
一般的な知名度はいまひとつなのが残念なのですが
胆の据わった、面白い人だったようですね。
龍馬をはじめ、長崎にやってきた維新の立役者たちと
交流があったとも伝えられています。
ちょうど商売で財をなしていたころ。
面倒見のよい彼女、資金援助も惜しまなかったとか …
そのお慶さんを演じるのは、余貴美子さんだそうです。
なんとも絶妙なキャスティング。
登場は、7月18日からの第3部ということ。
昨日のオリコンスタイルの記事 に添えられた写真の
黒ずくめの初扮装姿が一風変わっていて、びっくり。
ますます楽しみになりました。
「上新茶 千歳 (ちとせ)」 が完売となりました。
本年度産の 特選新茶 のうち
手摘み・手鋏(てばさみ)摘みの数量限定のお品は
これにてすべて完売でございます。
天候不順で新茶の品質が心配されたなか
多くのお客さまに早々にご予約・お買い上げを頂戴し
スタッフ一同、感謝の気持ちでいっぱいです。
誠にありがとうございました。
なお、期間限定で販売中の 「新茶 田舎仕立て」 は
充分な数量をご用意いたしております。
販売期間は6月末までとなりますので
旬の時期に1年分のお茶を買い置きされるお客さまは
どうぞお早めに。
また、通年販売しております定番商品の煎茶は
「特上煎茶 百福 (ももふく)」 から
「煎茶 若緑 (わかみどり)」 までの4ランクが
本年度産の新茶に切り替わっております。
いずれも静岡県掛川、山間地の一番茶を100%使用。
他産地のお茶も、古茶 も一切ブレンドしていない
山のお茶の “みる芽” の香味を、ぜひお試しください。
すこし前、5月8日の 朝日新聞 国際面に載っていた
新聞記事になりますけれども
気になって切り抜いておいたものを今日再読しています。
「お茶の国でコーヒー 中国 新風景―変わるひと・くらし」
中国では、ここ数年のあいだに
若者を中心にコーヒー消費が拡大しているのだとか。
たとえば、日本にも多くのお店があるスターバックスは
「カフェオレ1杯28元(約380円)」 で
日本でトールサイズのラテを買うのと、ほぼ同額。
ちょっと高級感がある価格設定にもかかわらず
北京に1号店をオープンしてから10年あまりで
「26都市370店以上」 に急成長しているといいます。
戦後日本でも、またたくまに浸透したコーヒー。
クセになるような強い香味の飲みものが
西洋への一種の憧れをもってぐんぐん普及していく姿は
すこし前の日本と思いきり重なります。
ただ、私がこの記事でむしろ驚かされたのは
輸入だのみの日本とは異なり
コーヒー豆生産も急成長しているという点です。
それもなんと、「中国国内で取れるコーヒー豆の98%」 が
世界に名だたるお茶の一大産地、雲南省産。
なにより生産者にとっては
お茶などの比ではない高収入が期待できるようで
プーアル茶で有名な同省の普洱(プーアル)市でも
「茶葉や野菜の畑をコーヒーの木に切り替える農家が
増えている」 といいます。
長らく基幹産業だった雲南の茶業。
コーヒー人気によって今後どのような影響が生じるのか
気になるところです。
昨日、改定常用漢字表の答申案が決定しましたね。
「常用漢字:191字増の2136字 改定答申案決定」
(5月19日付 毎日新聞)
毎日新聞の上記の記事ページからは
追加される196字と削除される5字がすべて載った
一覧表へもリンクできるようになっていますよ。
昨年1月の試案 のころから注目していた 「煎」 の字。
これもついに、常用漢字表に載ることになります。
この漢字、そもそもどんな語義なのか
この機会にあらためて国語辞典をひいてみました。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
<1> 成分を煮出す。煎じる。茶を入れる。
<2> 熱して水分を飛ばす。
▽ もと、いって煮詰める意。
― 岩波国語辞典 第七版(岩波書店)より ―
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
水が欠かせない <1> にたいし、水をきらう <2> 。
煎茶の 「煎」 は、いうまでもなく <1> の意味。
一方、同じく 日本茶 に関わることばでも
ほうじ茶を焙煎するといった 「煎」 は <2> に相当します。
そういえば、お茶のよき友、煎餅の 「煎」 も
火を入れてカリっと水分をとばすから <2> ですね。
もとの成分をギュッと凝縮するという意味あいでは
<1> と <2> は共通していますけれども
結果的に随分と両義的な感じがするのがユニークです。
『寛永の華 美濃で焼かれた初期御深井釉のやきもの』
於・岐阜県陶磁資料館(岐阜・多治見)
2010年4月1日(木)〜5月30日(日)
竹が風にそよそよと揺れる、あかるい中庭。
回廊式の、のびやかな雰囲気の資料館です。
現在の展示は、御深井(おふけ)のうつわ。
御深井という釉薬、個人的にとっても好みです。
灰釉(かいゆう)の色みに近いようですが
それよりもまったりと、やや黄色や緑色寄りでしょうか。
そう、関西の門前町の茶店によくある、飴湯。
あの甘美な色あいと透明感にも似ているような。
さて、御深井焼といえばもともと
尾張徳川家の御庭焼(おにわやき)として知られます。
名古屋城の御深井丸(おふけまる)でつくられたことから
この珍妙な名がついているそうですね。
ただし、現在こちらで展示されているのは尾張産ではなく
同じく御深井釉をほどこした
ご当地、美濃でつくられたものだといいます。
数寄者好みの豪放な桃山陶を次々にうみだした美濃で
その後、どちらかというと気品と抑制味のある
御深井釉のうつわもつくられていたとは、驚きました。
いくさの世から、徳川の太平の世へと時代がうつり
ちょうど、小堀遠州による垢抜けた 「綺麗さび」 が
茶の湯をしつらいを一変させたころ。
悲しいかな、美濃の桃山陶は時代遅れとみなされ
作風の転換をせまられた陶工たちは、時流に応じ
御深井のうつわに生活を託したのでしょう。
ちょうどその転換期、江戸初期の作品が並びます。
茶陶を中心に、型打ちの可憐な向付(むこうづけ)も数多く。
いずれも染付はほどこされず、単色の釉薬がとっぷりと。
彫りやヘギ、あるいは型打ちでへこませた文様は
全般に、さほど細密ではないものの。
そこにできた、透明感のある厚い釉溜まりが
やわらかにつややかに文様を浮かびあがらせています。
硬質磁器生産へといたる技術革新の前夜ですから
釉薬も素地もやや厚手の、素朴ともいえるつくりですが
それがまた、使い手が入りこむ余地があるというか
使ってみたいなと感じる魅力につながっているようです。
ご当地の資料館ならではのコアな企画。
大らかな桃山陶の残り香も、たしかに感じる
ゆったりとあたたかな時間が流れる好空間でした。